2025年12月の気になる新刊の話です
モナリザ・オーヴァドライヴ〔新版〕 (ハヤカワ文庫SF) 文庫 – 2025/12/3
「奇妙。サリイ・シアーズは、外人〈ガイジン〉ロンドン全体より奇妙だ」――抗争から逃れるためロンドンへ飛んだ大物“ヤクザ”の娘、谷中久美子〈ヤナカクミコ〉についたボディガードは、銀に輝くミラー・グラスの女侍〈サムライ〉サリイ。未来を見失った少女と、過去を切り離せぬ女。ふたつの孤独な魂の影には、T=A〈テスィエ・アシュプール〉の亡霊・3ジェインの思惑が密かに見え隠れしていた……未来世界と電脳空間〈サイバースペース〉のヴィジョンの究極形が示される、三部作完結篇!
解説:酉島伝法。巻末にはシリーズ用語集「スプロール・インデックス」を収録。
かっこいいジャケ、黒丸尚の訳、酉島伝法の解説と付録の用語集、と内容は100点なのだが、値段があり得ないくらい高い。ハヤカワ文庫SFは講談社文芸文庫と同じ2000円台を普通に覚悟しなきゃいけない高級レーベルになってしまった……(ハヤカワ文庫JAはそれほど高くない)
運は創るもの 似鳥昭雄 私の履歴書 (日経ビジネス人文庫) 文庫 – 2025/12/5
大好評の「面白すぎる履歴書」がついに文庫化。度胸と愛嬌で日本一の家具チェーンをつくりあげた創業者による波瀾万丈の一代記。
もともとの新聞連載で読んでいたのだがビジネス書と思えないマジで凄いことばかりが起こる。「学生時代は闇米やカンニングでなんとか卒業」「起業してからは1店目なのに「家具卸センター北支店」と名付けて大きな本店があると錯覚させる」「ドーム型店舗で大売出ししようとしたらドームが潰れて家具が全部傷物になり大ピンチ」「海外拠点の従業員を横流し疑いで解雇したら報復でマシンガンで脅された」とか、こち亀の両さんが調子に乗った時みたいなメチャクチャな展開が連発。日経新聞の「私の履歴書」シリーズでこんな迫力がある人物は後にも先にも恐らく登場しないと思われる。
超 すしってる (単行本) 単行本 – 2025/12/8
○幾原邦彦(アニメ監督 代表作『少女革命ウテナ』『輪るピングドラム』など)激賞!
きっと何者にもなれないモラトリアムたちの明日はどっちだ?
これは僕たちの生きる世界と、その生存戦略についての物語だ。
スシが僕たちのことなら、スタンドバイミーは、ここから始まる。
モラトリアムは電気マグロの夢を見るか?
――「すし」になりたい、さもなくば何にもなりたくない。
時は2020年3月。
東大に落ちた女子高生・サッチャーの元に届いたのは、「西東京すし養成大学」の合格通知。
藁にもすがる思いで赴いた怪しい説明会には、同じく合格通知を受け取った親友3人の姿が。
入学オリエンテーション「シャリ化」の洗礼を受けた4人の少女達は、
すし大学の講義を受けるうちに、水中呼吸を会得したり、
手の平からワサビが出るようになったり、だんだんと「人間離れ」をしていく。
未来にも社会にも背を向けて、負け犬になりたくないから「すし」になる。
――でも、本当にそれでいいの?
大人と子供の狭間でもがく少女たちが選ぶ未来とは。
異色の不条理青春ラプソディ、爆誕!
あらすじがあまりにもイカれている。だがの幾原邦彦がコメントを寄せているのを見ると、おそらく『少女革命ウテナ』『輪るピングドラム』のような不条理や超常現象を使うことで時代精神や抽象的に形を与えて暴き出す話なのだと分かる。かなり期待。
溺れる少女 単行本 – 2025/12/9
絵画「溺れる少女」に瓜二つの女性に魅入られた主人公は、精神に異常をきたす。怪談、都市伝説、人魚、人狼、カルト宗教……。信頼できない語り手による傑作サイコロジカル・ホラー。
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驚異的な文学作品
──ピーター・ストラウブ
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読者を瞬く間に深淵に引きずりこむ
──ブライアン・エヴンソン
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【あらすじ】
狂気を宿した母ローズマリーと祖母キャロラインの記憶をたずさえて生きる、画家兼小説家のインプ。ある日、町で出会ったゲームライターのアバリンと恋をするが、ドライブ中の路上で裸の女性エヴァと出会い、物語が反転していく。11歳のときにはじめて見た絵画『溺れる少女』、セーヌ河で溺れた名なしの少女、赤ずきんちゃん、ルイス・キャロル、ブラック・ダリア、ウラジーミル・ナボコフ、ジェヴォーダンの獣、セイレーン……。エヴァに出会ったのは、夏の夜のルート122か、秋の夜のウルフ・デン・ロードか。真実と事実が入りまじる、新たなゴースト・ストーリー。ローカス賞、世界幻想文学大賞受賞作家の最高傑作。
訳者の鯨井久志先生が激推ししていたので気になっている本。鯨井久志先生は『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』というロボット犯罪もの・ナボコフのロリータのオマージュ・実験的文体などを含む相当難しいであろう作品を見事に訳しきる手腕を見せたので今回も気になっている。
子どものSNS禁止より、大人のX規制が必要な理由 (光文社新書) 新書 – 2025/12/17
「子どものSNS利用を禁止すべきか?」
いま、世界中でこの問いが真剣に議論されています。気がつけば、子どもたちはごく当たり前のようにスマートフォンを手にし、SNSの世界へと足を踏み入れています。友達とつながるため、情報を得るため、退屈しのぎのため、彼らは実に様々な使い方をして、その発想の多様さは開発に関わった技術者をも驚かせるほどです。大人にとっても手放せないツールですから、子どもたちが惹かれ、夢中になるのも自然なことでしょう。
そこにはもちろん、懸念も存在します。SNSは牧歌的な「ただのおしゃべりの場」ではなくなっています。炎上、ネットいじめ、メンタルヘルスへの悪影響、性犯罪のリスク――。子どもたちを守るため、私たちはテクノロジーに何らかの「制限」をかけるべきだ。その声が日増しに大きくなってきたのは、必然かもしれません。
――と、ここまで書いて、「全然ピンとこない。炎上? いじめ? この著者は何を言っているんだ? SNSは平和で癒やされる場所だぞ」という感想の方もいると思うんです。
SNSの使われ方は本当に多様で、利用者ごとにまったく異なる世界が展開されます。心から安らぐ場である人もいれば、誹謗中傷の荒野である人もいるでしょう。
猫の画像ばかりが出てくるタイムラインに育った方は、その幸運を噛み締めつつ、本書を「こういう現実もあるんだな」と読んでいただければと思います。
ただ、私自身はこの状況に、ずっと違和感を覚えてきました。
もしかすると私たちは、問題の本質とは少し違う場所で、解決策を探しているのかもしれない。そんな気がしていたのです。
私たちが普段なにげなく「SNS」と一括りにしているサービス。これは本当に、すべて同じものと考えてよいのでしょうか。友人とだけ繋がる閉じたグループLINEと、見知らぬ他者の意見が雪崩のように流れ込んでくるX(旧Twitter)とでは、そこで起きていることも、そこで感じる私たちの心の動きもまったく異なります。そうであれば検討すべき解決策も自ずと違ったものになるはずです。
本書では、「仲間と閉じるサービス」と「世界へ拡散するサービス」という分類を提案しました。この新しい道しるべのようなものを手にすることで、これまで混沌として見えていたネット上の炎上、誹謗中傷、そして社会の分断といった問題の構造が、少し違った形で、あるいは少しクリアに見えてくることを企図しています。
おもにX(旧Twitter)を指して「SNSが以前よりもひどい場所になった」という話を毎日のように聞くが、本当にそうなのか、そうであればなぜなのか、そもそも問題が整理されていないのではないかという感覚はずっとあった。この本にはそのヒントが乗っていそうなので期待。
この世でいちばん甘い毒 (エヌ・オ―・コミックス) 単行本(ソフトカバー) – 2025/12/19
好奇心と恐怖と愛の短編集
知りたい。この街の歴史も、あの川の怪異も、そして、きみの気持ちも。
旅先の図書館でプランを考える人、
突然道端の碑(いしぶみ)と目が合った人、
怖くない幽霊に出会う人、
セフレの意外な一面を見る人、
などなど…。
「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」等で執筆した9作品に加え、本書でしか読めない特別描き下ろしを収録。恋愛・ホラー・好奇心…ジャンルを縦横無尽に駆け巡る、zinbei初の短編集!
zinbei先生といえばブロック塀や地蔵や石塔など暮らしのなかの民俗学的なものを見つける視線が面白く、また日本海側のどんよりした空や海沿いの生活感ある汚れた景色など同じ日本海側出身者として共感できるイラストを多数描いていてこれが本当に凄い。そうした生活への鋭い洞察が漫画の中に匂い立つような生々しい実在感を与えている。今一番楽しみな短編集。
やちるさんはほめるとのびる(2) (ヤンマガKCスペシャル) コミック – 2025/12/19
人間界で生きる八尺様・やちるの悩みは、世間の間違ったイメージによって身長が縮んでしまったこと。ある日、八尺様の大ファンの青年・誠一郎と出会ったやちるは、誠一郎に褒められると身長が元の大きさに戻ることに気がつく。八尺様の力を取り戻すため、少しずつ『検証』を重ねていくふたりだったが、近づいていく距離にやちるが暴走してしまい…!?
「八尺様はえっちな妖怪」という誤ったイメージにより身長が縮んでしまったやちるを本来の姿に戻すため、八尺様の大ファンである青年・誠一郎と協力して試行錯誤をするというストーリー。様々な『検証』を重ねるうちに、やちるは誠一郎に褒められると元の背丈に戻ることに気が付く。やちるは性的な偏見を持たずひとりの存在として向き合ってくれる誠一郎の真摯な姿に信頼を重ねていくが、実は誠一郎は背の高い女性がタイプで……。やちるが元の姿に戻る条件は「性的に見られない」ということだけではないのだと次第に明らかになっていく。
よくあるラブコメなら「無遠慮な性的目線は悪い」「不同意な接触は悪い」「自分の尊厳を守ることが大事」という教条的な主張をするだけにとどまるが、この作品はその先を行っているところが凄い。元から誠一郎はやちるのような背の高い女性がタイプだったことので『検証』を重ねるたびに悶々とし、やちるもまた自覚なく誠一郎に惹かれていく。2人は倫理的でありたい気持ちと、無自覚のうちに性的に見てしまう/見られたい感情の間で葛藤し、よりよい関係を模索すべく議論と試行錯誤を重ねていく。この葛藤をフェチたっぷりのド性癖シチュエーション&もどかしいラブコメに昇華しているのである。倫理的なテーマを問うことがこんなにえっちで面白いのか!という感動がある。今一番アツいラブコメ。
キルミーベイベー 16 (まんがタイムKRコミックス) コミック – 2025/12/25
殺し屋ソーニャとおバカなやすなのバイオレンス爆笑コメディもついに16巻! これで「キルミーベイベー」トーナメントのベスト16進出決定です! 今巻ではワカサギ釣りをしたり野湯に行ったり、そしてXでも話題になったクセ強刺客が二人を襲う!?
このマンガは2008年の連載開始から今に至るまでやすな・ソーニャ・あぎりの3人(と1回限りの数々のバケモン達)でギャグを続けてきたが、なんと連載17年目にして新キャラ(?)ビスキュイが登場。しかも褐色猫耳シスターで無神論者という属性ドカ盛りのキャラなのだった。今のところ1回しか登場していないためレギュラー入りするかは不明だが、歴史的エピソードなので是非見てほしい。
へるしーへありーすけありー 2 (まんがタイムKRコミックス) コミック – 2025/12/25
「「嗚呼、愛すべきカスの美大生たちよ」」 きららMAXで大人気の美術×妖怪日常4コマ、待望の第2巻が登場! 生活が「終わってる」美大生たちと健康志向の妖怪たちが合わさった時の 化学反応=面白さは無限大!な完結巻!!
単行本1巻は2024年の面白かった漫画ベスト10に選んだ(記事)。独特な線のタッチや彩色、4コマなのに限界まで文字が詰め込まれて1コマずつが独立して1コマ漫画になっている作風、ギチギチなのに何故か混乱せず普通に読める配置……と全体的に他で見たことのない未知の技術で作られている特異な漫画。それなのに内容は底抜けに明るく楽しいコメディで不思議となじみ深く、しかも自然と読めてしまうからすごい。2巻で完結となったものの作者の次回作を是非読みたい。
ARIA完全版 [ARIA The MASTERPIECE] 8 (BLADEコミックス) コミック – 2025/12/25
TVアニメ放送20周年記念グランドフィナーレ!!!8年ぶりとなるARIA完全版の最新刊が登場!天野こずえ描き下ろし&完全監修の特別版も!!
豪華7大仕様による新構成(全7冊)で大好評を博したARIA完全版。その後に発表された映画の原作漫画や未収録番外編の単行本化を望むファンの皆様の声にお応えして8年ぶりとなる完全版の第8巻が登場。TVアニメ放送20周年記念のグランドフィナーレとして珠玉の名作群を初単行本化して今年の最後を飾る聖なる夜に皆様にお届けします。
ARIAが20年経っても大切にされていることが分かり感動……。
最強召喚士はアラサーおっさん~カードを親に処分されたカードゲーマーの異世界無双~(1) (REXコミックス) コミック – 2025/12/25
この書籍タイトルがひどい2025。