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「紙の本1万円デッキ」を組んだら楽しかった話

  • 2021-08-04
  • 2024-07-06
  • 読書
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HMVのセールに合わせて本を約1万円になるよう選ぶのが楽しかったという話です

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導入

HMVで1万円以上の買い物で35%クーポン還元セールが開催されている。電子書籍ではなく紙の本のセールでこれほどのポイント還元は珍しいので、この機会にオススメの本を約1万円になるようセレクトして「1万円デッキ」を組んでみた。

1万円デッキ構築のポイント

キャンペーンのルールや、どのような本を優先して選ぶかのポイントを以下に述べる

  • 2021/8/31(火)発売までの書籍・中古書籍が対象
  • コミック・雑誌はセール対象外
  • 約1万円の予算を大幅に超過しないようにする
  • せっかくの紙の本のセールなので、なるべく電子化されていない本を選びたい
  • HMVではAmazonなどで扱っていない本もあり優先して選びたい

今回構築した1万円デッキレシピ

資本主義リアリズム 2200円
音楽の憎しみ パスカル・キニャール・コレクション 2750円
2000年代海外SF傑作選 ハヤカワ文庫 1276円
異国のおやつ 1760円
kaze no tanbun 夕暮れの草の冠 2200円
合計 10186円

資本主義リアリズム

資本主義の終わりより、世界の終わりを想像するほうがたやすい。ポップカルチャーと社会に鋭い光をあて、ヨーロッパで熱狂的な注目を浴びたイギリスの批評家、マーク・フィッシャーの主著、待望の邦訳刊行。2017年1月に急逝した彼の、「ぼくらの」、言葉とため息、叫びを、未来へ届けるために。

この本では""資本主義だけが唯一の持続可能な政治経済の形態であると信じ、その代わりになるものを想像することすら不可能だという意識が蔓延した状態""のことを「資本主義リアリズム」と呼んでいる。
一見して難しそうなテーマを扱っているが、小説や映画や音楽などを例に挙げてその中から資本主義に服従してしまう人々の様子を見つけ出して分かりやすく解説。さらに難解な概念にも独自のキャッチーな名称をつけることで理解を手助けしている。"資本主義をいくら批判しても、それ自体が資本主義に取り込まれて後押ししてしまう……"ということなどに関心がある人は読んだらよいと思います。
ところでVTuber「シャルトリューズ山田」の愛読書だそうで、配信ではこの本に出てくる有名なフレーズ「人生の不可避な売春性」「この道しかないのか」をよく挙げている。VTuberというまさに売春的なふるまいをしながら自己批判しつつ、結局はそれを商品にするしかないという状況がこの本の通りになっていておもしろい。

音楽の憎しみ パスカル・キニャール・コレクション

誕生以前から、音楽とともに人は存在した―否応なく魅了する反面、人を呪縛し心を引き裂く、音楽なるものと、いかにして人は生きてきたのか。オルガン奏者の家系に生まれた作家/音楽家ならでは視点から、ギリシャ神話、ホロコースト、文学的題材を逍遥し、人類の初源から音楽を問う、孤高の思索/詩作。

伊藤計劃『虐殺器官』の冒頭でこの本が引用されている。また同作では黒幕であるジョン・ポールの言葉として、この本の章題である「耳にはまぶたがない」というフレーズが登場する
この本では歴史のエピソードや神話から音や音楽について人文学的に考察し「虐殺の文法」とも共通する音楽の性質を明らかにしていく。論考でありながら文体が独特で、詩のような情景描写や多数の断片的なフレーズからなる文章を読み進めていくと次第にそれぞれが結び付き大きな流れが見えてくる。知的快楽と身体感覚の両方を刺激する独特の読書体験がおもしろい。
東京オリンピック開催には反対したのに開会式でゲーム音楽が使われた途端に盛り上がってしまうのはどういうことなのかを考える手助けにもなった。
『虐殺器官』で引用されたのは青土社版で長らく絶版になっていたが、水声社から2019年に出版されたのがこの本。また水声社の書籍はAmazonで売っていないので、セールで買うなら水声社と思ってデッキに入れた。

2000年代海外SF傑作選 ハヤカワ文庫

待望の年代別翻訳SF傑作選 イーガン、ジェミシン、ストロス、ドクトロウ……。2000年代に発表された海外SF作品の粋をあつめた充実の年代別アンソロジー!

90年代SF傑作選から18年ぶりの刊行、さらに90年代SF傑作選収録のグレッグ・イーガン「ルミナス」の続編にあたる「暗黒整数」が収録されていて歴史の系譜が感じられる。またアレステア・レナルズ「ジーマ・ブルー」はネットフリックスで映像化第52回星雲賞海外短編部門受賞などで今アツい。
アンソロジーの組み方が上手く、1本目はたった6ページのエレン・クレイジャズ「ミセス・ゼノンのパラドックス」で驚かせて見事なつかみ、中盤はインターネットなどゼロ年代らしさを出しつつユーモアを展開、最後にアレステア・レナルズ「ジーマ・ブルー」のスケールと情緒で締めて余韻を残し、とても読みごたえがある。
2010年代海外SF傑作選とどちらにするか迷ったが話題性でこちらをデッキに入れた。1万円くらいというルールで外したものの本当は両方買ったほうが良いです。

異国のおやつ

スパイスとお酒の効いたドイツのケーキ、ラマダン明けに食べる中東の揚げ菓子、黄金色をしたポルトガルのタルト、目にも鮮やかなインドの伝統菓子…。お菓子の歴史や文化的背景も紹介した、家にいながら旅心を満たせる一冊。

珍しい世界のおやつを扱っている都内のお店を紹介したガイドブック。ガイドとしての価値だけでなく写真集としても魅力的で、見たことのないお菓子、各国の調度品あふれるお店の様子などを見るだけで旅心が満たされる。
掲載店舗は港区あたりが多めでちょっと贅沢なお菓子屋さんや格式高そうなカフェが主に紹介されているが、手頃なスーパーや食材店も載っている。新型コロナウイルスのせいで中々お店には行きづらいが、この本で紹介している「東京ジャーミィ・ハラールマーケット」は通販もあるとのこと。最近はトルコのお菓子「バクラヴァ」を買って食べている。甘くて香ばしく、とてもおいしい。

kaze no tanbun 夕暮れの草の冠

世にも精緻な文の祝祭―華麗なる“短文”アンソロジー。 目次 : コンサートホール(小山田浩子)/ 僕の人生の物語(木下古栗)/ ドルトンの印象法則(円城塔)/ 編んでる線(斎藤真理子)/ ペリカン(蜂本みさ)/ セントラルパークの思い出(藤野可織)/ たうぼ(松永美穂)/ 白いくつ(日和聡子)/ 旅行(以前)記(青木淳悟)/ 誤解の祝祭(早助よう子)/ 親を掘る(大木芙沙子)/ 病院島の黒犬。その後(西崎憲)/ メロンパン(岸本佐知子)/ 高なんとか君(柿村将彦)/ エディット・ピアフに会った日(斎藤真理子)/ 薄荷(滝口悠生)/ 悲愁(飛浩隆)/ 夕の光(皆川博子)

西崎憲による、短編でも詩でもない「短文」を集めたアンソロジー。短い文章にアイデアが詰まっており、また一篇の物語のようにも読める。執筆陣の豪華さに驚かされ、さらにとにかく凝った装丁が魅力的。8月末まで「切手小説」プレゼント企画も実施中とのこと。
この本だけ所持しておらず(知人に見せてもらった)、この機に購入してちゃんとレビューを書こうと思う。

惜しくも選ばれなかった本

チャイニーズ・タイプライター

中国語タイプライターの“不可能性”から繙かれる圧巻の言語技術文化史。漢字についての発想の転換や戦時中の日中関係、入力や予測変換といった現在につながる技術の起源まで、波瀾と苦渋に満ちた展開を鮮やかに辿る。 目次 : 序論 そこにアルファベットはない/ 第1章 近代とに不適合/ 第2章 中国語のパズル化/ 第3章 ラディカル・マシン/ 第4章 キーのないタイプライターをどう呼ぶか?/ 第5章 漢字圏の支配/ 第6章 QWERTYは死せり!QWERTY万歳!/ 第7章 タイピングの反乱/ 結論 中国語コンピューターの歴史と入力の時代へ

19世紀に発明されたタイプライターは西洋文明の優位性の象徴であり、一方で漢字のもつ複雑な文字体系は英語をベースに考案されたタイプタイラーと相性が悪い。タイプライターを使えない言語は遅れているのか?しかし四千年の歴史をタイプライターごときのために捨てるべきではない―。近代の象徴であるタイプライターのしくみと中国語のあいだのギャップと苦闘しつつ、様々な方法で中国語のタイプライターを実現しようと試みた歴史が貴重な資料や珍しいイラストとともに語られる。単なる技術の歴史だけでなく、それを通じた民族のアイデンティティも問いかけている。
冒頭には北京オリンピックの入場順が国名の漢字の画数順だったので西洋人が困惑したというエピソードが載っており、東京オリンピック開会式の50音順入場が話題になったことと関連がありタイムリー。 しかしこの本は4950円と高額で1万円デッキに入れるとスペースを半分も占領するので今回は見送りとなった。

終わりに

今回のHMV35%還元セールは2021年8月9日まで実施だそうです。
みなさんも1万円デッキを作って紹介してください!

8/9(月)まで!大還元祭!1万円以上で35%クーポン還元!発売済 本・CD・アナログ盤 対象(※コミック・雑誌 対象外)

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