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大のアニメ好きが選ぶ"もっと評価されるべき2024年アニメ" 企画に送った選評全文

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ねとらぼの企画記事に参加して、もっと評価されるべき今年のアニメについて語りました。

こちらの記事にてアンケート投票に参加させていただきました。年末恒例・大ヒット作の影に隠れた本当に面白い作品を掘り起こす企画記事です。
私は以下の5作品に投票しました。

  • 真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 2nd Season
  • 治癒魔法の間違った使い方
  • となりの妖怪さん
  • 変人のサラダボウル
  • 怪異と乙女と神隠し

以下、アンケートに記載した選評を掲載します。


真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 2nd Season

一見していかにもルサンチマン充足ポルノのような追放モノらしいタイトル、かつバトルが多くあまりスローライフというわけではなかった1期の続きという前評判が視聴者を敬遠させていた印象がある。2期では人々が望むかどうかにかかわらず神に何らかの加護(能力)を授かるという世界で、与えられた神の加護を運命と解釈して従順に生きるか、人の幸福を求めて自ら選んで生きるか、という骨太なテーマが展開される。加護がもたらす衝動に従った生き方と理性で望んだ生き方の衝突のドラマや、かつて戦いや殺しに身を投じた人々が獲得した穏やかな日常スローライフのパートなどを通じたテーマの掘り下げは見ごたえがある。1期だけでは分からなかった真髄が描かれて評価が一変する”TVアニメ2期”の醍醐味的作品だと思う。

治癒魔法の間違った使い方

異世界転移ものにありそうなハックで出し抜くようなタイトルでいて、その内容は勇者の召喚に巻き込まれた普通の少年が勇者としてではなく救命団員となり、戦場での負傷者を救うべく過酷な訓練を乗り越え成長していく……という実直な内容。あまり格好よく思われないであろう負傷者を抱えての離脱を、ラグビーのようなアクションで提示するアニメの映像表現に驚かされる。救命団の活動は命を救うためなら何でもすること、自己犠牲を許さず自分たちも死なないこと。それは殺戮や憎悪を武器とする敵に打ち勝つための最も優れた戦術でもある。田中敦子さんの名演とヒューマニズム溢れる作風が胸を打つ傑作。

となりの妖怪さん

放送時間が深夜2時と遅かったことやソフト化されなかったことから注目度は決して高くなかった印象だが、美麗な作画や原作解釈の巧みさで高品位なアニメーションに仕上がっている。人と妖怪が共存する世界を舞台に、少しのオカルトやSF要素を交えた日常と温かなヒューマンドラマが描かれる。登場する妖怪や様々な不思議な出来事は血縁、しがらみ、死別、認知症や後遺症などのメタファーでもあり、異なる世界のドラマを通じて現実社会をいかに生きるかを問いかける。

変人のサラダボウル

ふざけた作風をアピールする宣伝と放送時間の遅さからあまり真剣に視聴されていなかった印象がある。当然ふざけたキャラクターばかりの作風ではあるのだが意外にも社会派で、変人たちを通じて提示される社会観が見事なのである。セクキャバ、転売屋、新興宗教、パチンコなどの街のクリーンでない部分に触れたり、かと思えば必ずしも正しくはない人々が街を回していたり誰かの助けになっていたりする。このような変な人々が互いに対して冷淡でも過干渉でもなく適度な距離で関係しあっている街の様子が描かれる。舞台に岐阜というやや微妙な地方都市を選んでいる点も、東京などから受ける特別感をうまく排除して自分たちの社会と地続きの印象を与え、普遍性を感じさせることに一役買っている。

怪異と乙女と神隠し

『海がきこえる』の望月智充が監督をやっているだけあって映像の地力があまりにも高いにも関わらず、あまり評論されていないのが悔しい。昨今のいわゆる「超作画」でもなければ映画のようなロングショットでもない、テレビ映えするコンテとレイアウトのパワーで勝負している作品なのである。アイレベルの使い分けや強い印象を与えるPAN、ホラー作品をここ一番で引き立てる効果的なダッチアングルなど技巧的な”TVアニメ”の技を使って映像を作っている。オリジナル展開の終盤も往年のアニメ化作品を思わせる良さがある。”劇場版”クオリティを求めて過剰な負担のわりにどこかアンバランスになりがちな昨今のアニメに対する”TVアニメ”の逆襲のような映像に、ただ贅を尽くすだけが正解ではないアニメの奥深さを思い知らされる。


 ここ数年、テレビ放送されているアニメをリアルタイムで可能な限り見る・合わないと思ったアニメでもとりあえずは最後まで見る、というマイルールを課してアニメ視聴をしています。配信サイトで視聴していると世間の話題やユーザの嗜好に合わせてレコメンドが行われるため保守的な試聴態度になりがちなのに対して、テレビは人気も好き嫌いも関係なしに一方的に放送してくるのでかえって意外な出会いに溢れているような印象を受けます。今回投票した作品はいずれも話題作に比べるとどうしても認知度やSNSでの話題性で劣り、放送時間帯も必ずしも恵まれてはいないものの、それでもただ深夜にずっとテレビを流しているだけでこのような全く知らない作品に出会うことができます(漫画雑誌を買って目当ての作品を読んだ後、ついでに他の作品も読んでいる時の感覚に似ています)。テレビでアニメを見る醍醐味ってこういうことなんじゃないでしょうか(?)
 2025年もお互い良きアニメライフを送りましょう!

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