「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」投票企画の参加記事です
「話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選」投票企画に参加しました。ルールは以下の通り
■「話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選」ルール
・2024年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。
・集計対象は2024年中に公開されたものと致しますので、集計を希望される方は年内での公開をお願いします。
https://aninado.com/archives/2024/12/07/1070/
以下の10話を選出しました。日付は初回放送日です。
- ゆびさきと恋々 Sign.10「桜志の世界」(3月9日)
- 治癒魔法の間違った使い方 #11「炸裂! 必⽣の拳!」(3月16日)
- ガールズバンドクライ 第8話「もしも君が泣くならば」(5月25日)
- 忘却バッテリー #11「俺は嘘つきだ」(6月26日)
- 義妹生活 第6話「酢豚 と 雨」(8月8日)
- 負けヒロインが多すぎる! 第5話「朝雲千早は惑わせる」(8月11日)
- 疑似ハーレム 7話「卒業」(8月16日)
- 小市民シリーズ 第10話「スイート・メモリー(後編)」(9月15日)
- アクロトリップ #6「魔法DE無法」(11月6日)
- 2.5次元の誘惑 EPISODE 21「主人公の物語」(11月22日)
ゆびさきと恋々 Sign.10「桜志の世界」
聴覚障害を持つ女子大生・雪が大学の先輩・逸臣に惹かれていき、交際を経て少しずつ知らなかった世界を知っていくラブストーリー。10話前半は雪と逸臣の互いの距離が一気に近づくお泊まり、後半では雪に好意を寄せているが素直になれない幼馴染・桜志が、逸臣と直接対峙して自らの気持ちを自覚するまでが描かれます。
手話をしている間は雪が見てくれるからという幼く純粋すぎる理由から、手話を2人だけの秘密のコードとしてとらえ、手話している間に生まれる2人だけの世界を守りたいと願い続けてきた桜志。一方で様々な国で過ごしてきた経験から、手話を互いの世界を近づける開かれたコミュニケーションのひとつとしてとらえ「いつどこで出会ったとしても いいなって思って俺は雪を選んでいくんだよ」とためらわずに好意を表明する逸臣。雪を誰にも奪われたくないと自覚した桜志のやり場のない苦しみと怒り、そしてそれすらも受け止めて理解してしまう逸臣の寛容さ。桜志が本当の意味でスタートラインに立つ瞬間であり、雪が大切に守られてきた今までと広い世界へと向かうこれからを象徴するようなシーンでもあります。
本作全体を通じてLINEで筆談している時にメッセージを画面に出す・雪の内心をモノローグで説明する・唇の動きを緻密に描いて読唇を追体験させるなど、聴覚障害がある人が行っている二者間のコミュニケーションを第三者視点から伝わる映像に翻案するのが見事なアニメだったんですが、これも逸臣のスタンスと同じように障がいがある人とない人の世界を近づけて一つにしていく試みでもあったように思います。どのエピソードも素晴らしく選出に迷いましたが、逸臣と桜志の対比で作品全体に通底するテーマを示したこの回を推しました。
治癒魔法の間違った使い方 #11「炸裂! 必⽣の拳!」
勇者として招かれたスズネ、カズキの召喚に巻き込まれる形で異世界へと来てしまった勇者ではない普通の少年ウサトが救命団団長・ローズに治癒魔法の素質を見込まれ、あらゆる命を救うべく過酷な訓練といくつもの戦場を乗り越えながら成長していくストーリー。11話はあらゆる攻撃を"反転"させる強力な魔族・黒騎士によって窮地に陥ったスズネ、カズキをウサトが間一髪で救い、"治癒魔法の間違った使い方"によって打倒するタイトル回収回。
黒騎士が使う"反転"はどんな攻撃も跳ね返す、まさしく憎悪と復讐が連鎖する戦争を象徴するような魔法。一方でウサトは負傷させずに相手を制圧すべく治癒魔法をかけた拳を打ち込み、黒騎士はこれを反転した結果自らがダメージを負ってついに敗北。憎悪や暴力ではない方法こそが戦争を終わらせるというメッセージがストレートに込められた素晴らしい回です。そして魔法を破ってはじめて黒騎士の顔が見えて、その後に名前も知るんですよね。もちろん敵の正体が美少女だったというエンタメのためのフックではあるんですが、戦争が黒騎士という戦士としての要素以外すべてを奪っているともいえるし(レヴィナス?)、互いの憎悪や恐怖が目を曇らせているようでもあります。
ガールズバンドクライ 第8話「もしも君が泣くならば」
バイト中に差別的な言葉を投げかけられつつもその場を収めたルパが「私にもロックは必要ということです」と仁菜につぶやくシーン。仁菜を思い出の中の自分と重ねて挫折から守ろうとする桃香に対して「あなたの歌で、生きようと思った人間もいるんです。」と抗議する仁菜。ダイダスから逃げる退路を仁菜に断たれ、宣戦布告を通じてついに過去と向き合い自分のロックを取り戻す決意をする桃香。自分を抑えて形だけ上手くやっていくのではなく、逃げずに本当の意味で自分の人生を歩むためにロックが必要なのだと訴える芯の通った骨太なエピソードでした。
正面から衝突するシーンの迫力だけでなく、さりげなく見せるもの、逆に敢えて見せなかったり触れなかったりする気遣いもいいんですよね。バンド内喧嘩に呆れて帰ろうとする智をルパが引き止めて直視させる。常に笑顔を向けるルパが私にもロックが必要と言った時だけは背中越しで顔を向けない。仁菜と桃香の過去も回想として描かれるのみで互いに具体的なことを述べない。最後のトラックの中のシーンではカーステレオの音量を上げて桃香の泣き叫ぶ声を消して、しかも窓の外へ顔を向けて桃香の泣き顔を見ない。ラストの仁菜が涙を流す表情は半分しか映らず視聴者もすべては知ることができない。各々の魂の主張を甘えやわがままにせず、しょうもない同情で汚すこともしない。それでも想いが伝わっている人がいると描く采配が見事でした。
忘却バッテリー #11「俺は嘘つきだ」
地面近くにアイレベルをおいた臨場感あふれる作画で劣勢のゲームを描き、追いつけないほどの情報量で焦燥をこちらに伝えてくる試合シーン。そして千早が一打逆転のチャンスへと繋ぐために選択した、たった一つのフォアボール。そのプレーの背景にある人生を、熱や情動まで伝わるような鮮やかな作画とテンポよく切り替わるグルーヴ感あふれる回想映像で描き出す勝負回です。
恵まれないフィジカルを補うためのつらい食事も、使えるもの全てを動員する性格が悪い戦略も、血の滲む努力や苦しい選択であったはずなのに、淡々と流してしまう演出。しかし自らが努力を重ねているにもかかわらず「いいなあ」と思ってしまった瞬間に、いくら詰め込んでも空虚だったと気がつき心が折れてしまう。淡々とした時間は自らの空虚さゆえでもあったのです。今までの野球でも野球以外の趣味でも満たされなかったその空虚さを、自他共に信頼する新しい野球でようやく満たせると気がつくに至るその後の掛け合いも素晴らしい。すべての要素が噛み合ったベスト回でした。
義妹生活 第6話「酢豚 と 雨」
親の再婚を機に義理の兄妹になった2人の関係を描くというラノベすぎる設定なのに、露骨なイベントなどを全くやらずひたすら静かな映像で上滑りするような微妙な距離を描き続けた挑戦的なアニメ。リアリティを志向しているようでアニメらしい大胆な嘘もつく6話の映像を選出しました。ドアの隙間から覗き込むようなショットや漏れ聞こえる不明瞭な音声を重ねて、浅村と綾瀬の距離を感じさせるAパート。それらを導線とし、エレベーター内で浅村と綾瀬が正面から2人だけで会話するシーンに山場を置いたBパート。会話を経て距離が縮んだのに合わせて、なぜかずっと止まっているエレベータが都合のいいタイミングで動き出し、そして浅村だけが写っていた鏡に綾瀬も映り込む。邦画のようなショットと画面内に存在するもの全てを使っていいアニメらしさの融合が面白い回でした。
負けヒロインが多すぎる! 第5話「朝雲千早は惑わせる」
どの回も面白かったものの、キャラ紹介ノルマも一通り終えて負けヒロインをめぐるラブコメがいよいよ本領発揮、原作にも通じる犯罪コメディ(?)要素も色濃く現れるこの話数をチョイス。
とにかく映像が楽しいんですよね。佳樹の可愛らしい動き。八奈見父の給料代わりに送られてきた大量のそうめんに占領されて互いが見えないシュールな部室の一幕。図書館で脚立や本のカゴを使って高低差と遮蔽物をつくり小鞠を見え隠れさせる会話シーン。温水くんと佳樹と2人の場面、スマホの液晶画面の裏側から覗き見る構図から漂う佳樹のなんかありそう感。喫茶店で焼塩と綾野が2人でいるところを発見した途端にPOV風になって緊張感を出してくるショット。尾行を繰り広げる一連のシーンの朝雲さんのコミカルな挙動と犯罪スレスレの行為の痛快さ。COUNTRYのNTRの部分……。遊び心あるシーンがみっしり詰まった回でした。こういう部分で遊び倒しているからこそキメの回でキマるんじゃないでしょうか(?)だからこの回はEDアニメで度肝を抜かれます。
疑似ハーレム 7話「卒業」
2人だけの即興劇も先輩の卒業で一区切り。何気ない会話のうちに2人が初めて出会った時の会話の再現が始まるシーンは今までの照れ隠しや遊戯の延長線上ながらも、重ねてきた時間と関係を思い出として大事にしていること、再演によってこれからも更新していくことを感じさせ、演じることの意味を遊戯からより特別なものへと変えていきます。
教室での卒業公演のあと、舞台裏代わりのベランダを外から映すショット。まるでスクリーンの奥に消えていくようにベランダを後にしてエンドロールが流れるエンディングは、この舞台を去っていく門出のようでもありました。そして卒業で完結じゃなくて先輩が大学生になってからの続きがガッツリあるのもすごいんですよね。舞台裏代わりのベランダから去った先には、舞台に見立てていた教室があるわけです。次の舞台が始まるように、高校生活が終わっても人生にも次のステージがある。
小市民シリーズ 第10話「スイート・メモリー(後編)」
同じ米澤穂信原作の『氷菓』が図説を多用した小気味良い推理の映像だったのに対して、正反対ともいうべき小津調のどっしりした静の映像で度肝を抜いてきた本作。重厚で見事な映像ながらも、時にどこか不自然で茶番めいているような違和感も含まれる推理劇の数々。そして9話・10話にかけてはこれらの茶番の真相、さらに視聴者がこの不自然さを無条件に受けいれて推理の世界へ引きこもってしまうことを痛烈に批判します。
いままでの2人の活動はすべて小佐内さんが仕組んだ計画で、掌中で踊らされていた小鳩くん。ずっと描かれてこなかった小佐内さんの内面。現実そのものをより好奇心のまま推理の世界へ思考を巡らすことが先立ち、世界を直視せず、小佐内さんの一人の人間としての側面を見落とした小鳩くん=読者の傲慢。一方で小柄な少女という外見のせいで不当な扱いを受けてきた小佐内さんは現実社会の不条理を否応なしに見せつけられているわけで、この一連の茶番を通じた復讐劇は現実で生きる自らの尊厳を守る意図も含まれており、ある意味で2人の根底にある世界観は正反対だったわけです。思い返せば推理中にあらわれる心象風景の演出もそうした推理で組み上げた世界観でしかものごとが見えなくなる小鳩くん=読者の傲慢さそのものだろうし、もっと言えば今までの全ての映像、格好いいカメラワークや演出の数々だってそうなわけです。会話劇のスリルでいえば9話も捨てがたいものの、茶番が茶番でなくなる瞬間、全てが違って見える体験をもたらしてくれた10話をベストに挙げました。2期も楽しみです。
アクロトリップ #6「魔法DE無法」
魔法少女と悪の総帥のごっこ遊びのような戦闘と、関心がありすぎも無さすぎもしない程よい温度で受け入れている街の描写が素敵なコメディ。6話では本気で魔法少女を倒そうとしている新たな悪の総帥・ヒューがテレビ局を占領して大暴れ、スタジオには魔法少女の関係者しか入れないという張り紙を律儀に守って魔法少女に変装するクロマがシュールな姿で駆けつけます。隙をついてフォッサマグナ総統にチクって解決するのも他力本願すぎてすごい。
日常が所与のものでなく人々の互助と絶え間ない努力で保守されていることを示すエピソードとしてのよさだけでなく、この張り紙を律儀に守るところがものすごく本質的に見えてきます。クロマは悪の総帥としてこの社会から浮いているようでいて実はかなり律儀にコードやルールを守っており、ちゃんとベリーブロッサムの名乗りを聴き終わるまで攻撃をしないし、ヒューという敵をなんとかする時にすら自力救済ではなく制度に頼っている。というかクロマはベリーブロッサムを引き立てたいので倒す気が一切ないし、ベリーブロッサムも程よいダメージしか与えない。この2人が互いにやりがいとして存在を認めているのに対して、ヒューは倒して排除ししようと目論んでいます。寛容な街を描き続けてきた本作の限界というか、寛容のパラドックスを連想させるエピソードでもありました。Aパート終わりのストレッチしてる張り切り状態なクロマの作画もすき。
2.5次元の誘惑 EPISODE 21「主人公の物語」
二次元しか愛せない奥村と、リリエルのコスプレが大好きなリリサを中心とした熱血コスプレ青春コメディ。21話ではアリアが漫画家だった父親に再会するためコミケ会場でのコスプレに挑み、日枯陽一と名前を変えていた父もまた娘に気がつきコミケ会場を訪れていました。娘を傷つけてしまった罪悪感から後一歩のところで再会に踏み出せず、自らの過去作も卑下してしまう日枯に対して、奥村が訴えた言葉がまた本当に良い。「作品の生みの親がどう思っていても読者は好きでいていい」と「親がどう思っていても子供は別」の2つをコスプレと二次創作(コミケ会場)で橋渡しして、好きや幸福だったことは偽物ではなく本物と導く理論の立て方が鮮やかです。「何かを好きでいていい」というオタク肯定の主張を、実在しない敵や実在しない批判をダシにして被害者的に語らず、親から自立した存在としての子供と重ねて描写した点も高評価でした。何より奥村役の榎木淳弥さんの魂の叫びのような名演が本当に素晴らしい。
以下は余談。
10作には入れなかったもののピックアップしたい話数
- ぽんのみち 東12局「雀卓の娘たち」
- 真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 第12話「決着、次の旅へ」
- 転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます 第10話「シルファの剣」
- HIGHSPEED Étoile #10「最速のその先へ」
- 逃げ上手の若君 第六回「盗め綸旨、小笠原館の夜」
- 真夜中ぱんチ 第4話「次の企画の主役はwho?」
- 変人のサラダボウル 第7話「異世界人の戸籍問題他」
- ぷにるはかわいいスライム第7話「Sweet Bitter Summer」
- ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン(2024) 第80話「時間よ、とまれ」
- 戦国妖狐 千魔混沌編 #22「時の彩の詩が咲く」
- ネガポジアングラー 第12話「ネガポジアングラー」
テレビアニメ以外でピックアップしたい作品
- Garden of Remembrance
- 〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン #06「撫物語 なでこドロー 其ノ伍」
- 【真夜中ぱんチ】譜風の極私的おすすめ漫画3選|YouTubeオリジナルアニメ④譜風(CV.羊宮妃那)
感想
今年は深夜アニメを見た本数がそれほど多くなかったし、朝アニメと夕方アニメ、アニメ映画、海外アニメ、インディーズ作品、MVなどは全然カバーできておらず。それでも全く視聴しない日を作らず、常に新しいものをみるぞ!という気持ちを維持でき、意欲を持ち続けることができました。アニメ視聴の習慣をつけてからというもの、毎日アニメを見れるんだから、本も読めるし勉強もいけるだろ、と謎の自信がついています。
放送されているアニメを網羅的に見る趣味って結構すごくて、テレビさえあれば一切お金がかからないし、チャンネルを合わせてさえいれば準備は終わり。他のコンテンツで網羅的に楽しもうとすればたぶん手間も費用ももっとかかるので、何かを網羅してオタクをやりたい人にこんな手頃な趣味はありません(?)毎日の番組表も漫画誌に似ていて、同時期の作品を比べたり、同一放送日の別アニメの中から偶然の一致を見つけたり、作品の入れ替わりを惜しんだりする楽しみがあります。
2025年も良きアニメライフを!